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第88回パイクスピーク・ヒルクライム 田嶋レポート

1916年の初開催以来、今年で88回目を迎えた世界最大のヒルクライム、パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム。今年も、私たち、チームモンスター with BC の挑戦が始まりました。

2006年から4年連続で総合優勝している我々にとって、目標はあくまでも連勝記録を伸ばすことです。その結果として「10分の壁」を破ってコースレコードを更新できるかどうかは、パイクスピークの大自然がもたらす天候や路面状況といったファクターが大きく左右します。

コロラドスプリングスに到着して、真っ先にコースを確認しました。年々舗装化が進んでいるコースは、ミックスサーフェスであることでタイヤチョイスやタイヤの使い方の難しさはありますが、タイムとしては良くなる傾向です。そして、マシン作りもコースの変化に合わせて毎年変わってきています。今年のマシンは、モンスタースポーツ静岡磐田R&Dセンターにある風洞実験装置を使って、空力を中心に改良しました。低ドラッグ・高ダウンフォースをコンセプトに、ルーフ形状や前後のウイングを見直しました。またエンジンも、トルクバンドが広くスピードの乗りを重視した特性に仕上げています。タイヤは、ファルケンタイヤが新たに開発してくれた WILD PEAK というモデルで、20インチにサイズアップしました。

今年は、ヒュンダイがル・マンのプロトタイプカーの様なマシンを持ち込みました。年を追う毎に舗装が進んでいる中で、レーシングカーの様なコンセプトが成功するのか、注目したいところです。
しかしながら我々には、1988年の初挑戦から22年間培った経験とノウハウがあります。ディフェンディングチャンピオンとして、決勝レースに向けてしっかりとやるべき事をやるまでです。


 

 
  6月23日 水曜日、プラクティス(練習走行)1日目はミドルセクションの走行です。今年初めてパイクスピークのコースを走るとあって、緊張が高まります。しかしながら、2回目の走行でドライブシャフトの破損がありストップ。1回しかコースを走ることができなかった。初日の早い段階でトラブルが出たのが、せめてもの救いです。

6月24日 木曜日、プラクティス2日目は、私の好きなトップセクションの走行です。昨日修理したマシンは好調で、昨年より約10秒も(!)速いタイムで皆を驚かせることができ、上機嫌で走行を終えました。

   
 

6月25日 金曜日、プラクティス3日目はボトムセクション。この日の走行はクオリファイ(予選)を兼ねています。パイクスピークでは、クオリファイチャンピオンが出走順を自由に決めることができますから非常に重要なのです。
この日も、引き続きマシン・ドライバーとも絶好調!タイムも昨年より約8秒速く、クオリファイのコースレコードを更新しました!

3日間のプラクティスを通じてマシンに大きな問題は無く、順調にセッティングを進めることができました。今年のために施した改良も当たり、新しいタイヤ(ファルケン WILD PEAK )も良かった。性能もさることながらコントロール性が良く、気持ちよくドライブすることができました。
各セクションのタイムから決勝レースのタイムを推し量ると、10分の壁を破るタイムが見えてきました。もちろん、各セクション毎に走るのと、スタートからフィニッシュまで一気に走るのでは、マシンやタイヤに掛かる負担が大きく違いますから一概には言えませんが、私を含め、皆の期待が大いに高まりました。

プラクティス終了後は、夕方からコロラドスプリングスの街でファンフェスタが開催されました。私たちの所には大勢のファンが訪れ、たくさん声を掛けていただいて楽しいひとときを過ごすことができました。テレビではこの「お祭り」の模様が中継され、パイクスピーク・ヒルクライムを大いに盛り上げています。もちろん、私もインタビューを受けましたよ!
しかし、このファンフェスタの終盤に降り始めた雨が気に掛かりました。レースウイークに入って初めての、まとまった雨だったのです。


 

 
  6月26日 土曜日はオフデイで走行はありません。スタッフは決勝へ向けて入念なマシンメンテナンスを行い、私はコースを下見するため、パイクスピークへクルマを走らせました。
頂上に着いたとき突如警報が鳴り始め、クルマや建物の中に避難するよう警報が出ました。すると、瞬く間にピンポン球大のヒョウが振りはじめ、その後、辺り一面が豪雨になったのです!
パイクスピークの中腹から上は森林限界点を越えているため、ほとんど植物が生えていません。そのため、豪雨は瞬く間に川となり、山肌の土をコースに押し出しました。

 

   
 

6月27日 日曜日、決勝レースを迎えました。昨日の雨が嘘のように晴れ上がりましたが、私の心配は路面状況でした。決勝当日は下見をできないため、走りはじめないと路面状況が分かりません。しかし、昨日の状況から良くなっていないのは確かでしょう。
私には、出走順を決める権利がありますので、前走車が路面をクリーニングしてくれるよう期待して、アンリミテッドクラスの出走順をなるべく遅く、しかし、午後からは雨が降ることが分かっていたので、ぎりぎりの出走順を選びました。

トラブルでレースの進行が遅れる中、なんと、ストームが事前の予想よりも早く訪れることが分かりました。路面が濡れてしまえば、ここまで積み上げてきたものが全て水の泡になってしまう!急遽スタート順を変更し、アンリミテッドクラス内で最初に出走することにしました。

そして、いよいよスタートラインへ。タイヤの温度、マシンの調子、路面状況、そして天候と、あらゆることが頭の中によぎります。
集中力を極限に高めるなかスターティングフラッグが振り下ろされ、マシンに鞭を入れる。
走り始めてしばらくすると、やはりグリップが若干落ちているのに気が付いた。しかし、気持ちは前へ前へ。滑りやすい場所もあったが、かなりプッシュしました。
コース半ばも過ぎてトップセクションの始まりとなる辺りでは、舗装にグラベルが乗った所で予想以上に滑り、車体の半分がコースオフしかけた!しかし、アクセルはゆるめず全開、タイムロスは最小限だったはずです。
そして、フィニッシュラインを通過!ミスしたコーナーはひとつだけ、私なりには十分満足のいく走りをすることが出来ました。

コースオフしかけた際に、車体後部に取り付けていたトランスポンダーが外れてしまっていたため、バックアップのシステムからタイムが出るまでに少し時間が掛かったが、告げられたタイムは 10分11秒490。
10分切りを半ば確信していたために残念であり驚きでもありましたが、昨年よりも4秒速いタイムですし、路面状況を考えれば悪いタイムではありません。2位のポール・ダレンバック選手に約30秒、3位のリース・ミレン選手には約1分もの大差をつけての5連覇です!

10分を切ることはできなかったものの、昨年以上のタイムを叩き出した激走に賞賛をいただき、また、皆が5連覇を喜んでくれました。年に一度だけフルコースを走ることができるパイクスピークで、連覇することがいかに難しいか、見ている人たちは皆分かっているのです。

5連覇という、継続的な素晴らしい結果を残すことができたのも、良いタイヤを用意してくれたファルケンタイヤとスポンサーの皆様、そして、完成度の高いマシンを用意し、私の気持ちを理解し支えてくれたスタッフのおかげです。

ちょうど決勝の日が私の誕生日(60歳の還暦)とあって、多くの方々から祝福を受けて本当に忘れられないレースとなりました。これからも元気で一生懸命頑張ります。引き続き応援よろしくお願いします。

 

チームモンスター with BC
田嶋 伸博

 

 

第88回パイクスピーク・ヒルクライム 結果

Unlimited Division

ドライバー ネーム 車両 タイム
田嶋 伸博 Suzuki SX4 10:11.490
ポール・ダレンバック Chevy 10:39.534
リース・ミレン Hyundai RMR JE09 11:06.208

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