#9.決勝レース 7月20日 (日)
パイクスピーク・ヒルクライム最終日。
年に1度だけフルコースを一気に駆け登る事ができる決勝レースを迎えました。
快晴の雲ひとつない素晴らしい天気に恵まれ、気温もどんどん上昇。お昼頃には路面温度も45度まで上がり、最高のレース日和になりました。
ビンテージカークラスやパイクスピークオープンクラスなどから競技はスタート。
誰もが今年の記録に注目しているアンリミテッドクラスのスタートは、4輪車部門の最後。予定ではお昼前ごろでしたが、スケジュールがどんどん遅れだします。
レッドフラッグ(赤旗)が振られてレースが中断するためで、私の前だけで、何と14回もレッドフラッグが出されました! 今年はとても路面が滑りやすいためで、多くの参加者が足を取られてコースオフしてしまったためです。
特にひどかったのはニュージーランドから来た選手で、大クラッシュのためヘリコプターでデンバーの救急病院へ搬送され、今も重体とのことです。一刻も早い回復を祈念します。
そして、今年のパイクスピークには、いくつかの大きな変化がありました。
ひとつは世界中を襲っている異常気象で、冬場はとても寒くなり、6月に入ってから60cmもの雪が降ったとのこと。これまででは考えられない初夏の6月にです!
そのために、パイクスピークハイウェイで行われていた道路工事が路面凍結でできずに大幅に遅れたそうです。
特にトップセクションで行われている舗装工事は、路肩の側溝を作るためコンクリートを流し込む作業の最中でレースウイークを迎えました。道幅が狭まった上、さらに土管を埋設するためいたるところを掘り返していて、コースはまるでオフロードコースのようにザクザクの上にガタガタ! とてもコースレコードを狙えるような状態ではありません。
また、スタート地点からのボトムセクションも工事のための大型車両が行き交うせいで、アスファルトに砂が乗っていたり路面が荒れていたりして、とても滑りやすい状況でした。
このような厳しい条件の中でしたが、「何とか新記録を出したい、10分の壁を破りたい」との思いで、スタートギリギリまで車両のセッテイングやタイヤのチューニングに専念しました。
車高は路面の悪さから多少高めに設定。タイヤはスタート地点からのアスファルトに備えて、新品のままではブロックの高さがありすぎてよれてしまうので、バフをかけて4mm切削。
また、中盤と後半に出てくるグラベル路面に対応するために、縦溝を2本大きくするのとトラクションを強化する横溝を外側にグルービングして追加しました。
また、プラクティスで調子の悪かったエンジンもECUマッピングの見直しで対策でき、暖気運転でも快調なレーシングサウンドをロッキーの山々に響かせています。
時間的には予定より大幅に遅れて1時25分ごろにスタート地点へ。
スタートでとても重要なタイヤの温度管理は、時間ぎりぎりまで特注の巨大なタイヤウオーマーで温めて万全を期していますが、空撮のためのヘリコプターの準備が遅れてしばらくスタート地点で待機。あまり遅れるとタイヤの温度が下がってしまうので不安を抱えながらスタートを待ちます。
ヘリが頭上に到着してホバーリングを開始し、いよいよスタート。
高地対策用の酸素ボンベのバルブを開けてスタートの合図を待ちます。
グリーンフラッグが振られて、いざスタート!
滑りやすいアスファルト路面に足を取られないように慎重に走りだす。コーナーイン側の砂や泥がアスファルト上に出ないように・・インカットできないようにするために、いたる所に干し草が置いてあり、コーナーが狭められていて走りづらい。
ピクニックエリアからいよいよ待望のグラベルへと入る。
例年に比べて砂や砂利がたくさん乗っていてとても滑りやすく、トラクションもかからずにタイヤはホイールスピンを繰り返すばかりで、なかなかアクセルを全開にすることができない。
悪戦苦闘でグレンコブのアスファルト路面へと進む。
グレンコブでもアスファルトに多くの砂が乗っていてとても滑りやすい。さらに冬場の凍結や大型車両のせいで、路面はガタガタに波打っていて飛ばされそうになるのを、なんとか抑えて通過。
ミドルセクションでは徹夜でキャンプをしていた多くの観客が大声援を送ってくれる。
苦しい走りを余儀なくされていたところで、この大声援には本当に助けられた。
いよいよ難関のトップセクションへ。
私とXL7の最も得意なグラベルのハイスピード区間なので、なんとか良い走りをしたいと気合いを入れて挑む。
しかし、残念ながら道路工事の影響で路面はとても荒れていて、思うようなグリップが得られずに苦しい走りを余儀なくされる。最終コーナーは2mも幅が狭くなっているので、イン側のコンクリートに接触してタイヤをパンクさせないように慎重に攻めてフィニッシュラインをくぐった。
結果は10分18秒。記録を更新できなかったが、このコース状況では素晴らしいタイムを出すことができたと満足しています。総合2位になったオープンホイールのダレンバック選手も11分台で、私だけが10分台であったことからも今年のレースの厳しさが伝わると思います。
今年は、1989年にカルタス・ツインエンジンで初めてパイクスピークに挑戦を開始してから、丁度20周年となります。スズキと共に20年間もの長い間挑戦し続けてきたこと、そして、その節目を総合優勝で飾り、King of the Hill という称号を与えられた事を誇りに思い、感激しています。
スポンサーをはじめとして、スズキの方々、そして観客のみなさん応援していただいた多くの方々に心からお礼申し上げます。
パイクスピークより
田嶋伸博
速報!
第86回 パイクスピーク・ヒルクライムの決勝レースが行われ、モンスター田嶋が駆るスズキスポーツXL7・ヒルクライムスペシャルが3年連続となる総合優勝を達成しました。
コース改修の影響もあって、タイムは10分18秒250と「10分の壁」を破る事は叶わなかったものの、2位のポール・ダレンバック選手(オープンホイールディビジョン)に40秒以上の大差をつける勝利に賞賛の声が集まりました。
Driver |
Division |
Vehicle |
Time |
Nobuhiro Tajima |
Unlimited |
Suzuki XL7 |
10:18.250 |
Paul Dallenbach |
Open Wheel |
PVA 4 |
11:00.944 |
Jimmy Olson |
Exhibition Car / Truck |
Ford Explorer |
11:44.319 |